【監督】リー・タマホリ
【出演者】ドミニク・クーパー、リュディヴィーヌ・サニエ、ラード・ラウィ、フィリップ・クァスト、ミムーン・オアイッサ、ハリド・ライス、ダール・サリム
【あらすじ】1987年、イラク。 イラク軍中尉で、戦争後はバグダッド有数の実業家である父の跡を継ぐ予定でいた青年ラティフ・ヤヒアは、前線から呼び戻される。 高校の同級生だったイラク共和国大統領フセインの長男ウダイから、彼の影武者になることを強制されたラティフは顔の一部を整形。 暴力とセックスに明け暮れるウダイの側で毎日を過ごすことになったのだが…。 実話から生まれた影武者の真実。 R-18。
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【解説と感想】いわゆる独裁者は、新しい国家を構築しようという理念によって行動し成功した政治家だが、成功した後は一様に絶対的な権力を握る。王制ではないのに世襲になったり、死後に神格化されたりもする。イラク共和国大統領サダム・フセイン(1937〜2006年)も独裁者になった。そして彼の長男ウダイは、大統領の息子というだけで権勢を誇っていた…らしい。父親はどんな形にせよ歴史に名を残したが、息子は残さなかったので詳細は不明なのだ。本作の主人公は、当時、ウダイの身の安全を図るための影武者を務めていたラティフ・ヤヒア。イラン・イラク戦争やフセイン政権についての物語ではない。
見どころはなんといっても、ドミニク・クーパーがウダイとラティフを一人二役で演じていることである。2人を見比べているだけで退屈しないし、2人が同じ画面に登場しても、全く白けた感じにならない。素晴らしいと思う。一人二役では2人の人物を一人の役者が演じるので、演じ分けを明確にするためと、観客が混乱しないために、2人のキャラクターが極端に違っている場合が多い。本作でも、沈痛な面持ちのラティフとハイテンションなウダイが、陰と陽の両極にいるように描かれている。
整形をして、マウスピースを装着し、髪型を変え、シークレットブーツで身長の差を微調整し、声の出し方を真似、経歴を暗記することにより、瓜二つになっていく。似ているが別人なのがポイントで、眼差しや口元(多少マウスピースの力を借りたにせよ)で表情を変え、スーツの着こなしに差を付け、声や身振りでそれぞれの特徴をよく表している。
バグダッド有数の実業家である父の跡を継ぐはずだったのに、不本意な影武者生活を送ることになったラティフ。彼は出来ないことは断ったし、ウダイの悪行を見かねて苦言を呈してもいる。ウダイの女にも手を付けた。彼は最後まで影武者だったのか? それともウダイに反旗を翻したのか…?「フセインの息子」以外、特に肩書もないウダイの生活は乱れに乱れていた。実際はもっとひどくて、とても映像化できないほど残虐なことを行っていたという。
取り巻きたちはウダイに異を唱えることが出来ず、結果として悪魔のような行為に加担することになった。家族を人質に取られるような形で影武者になることを余儀なくされたラティフも同じだ。ナチスに協力した結果、親友のユダヤ人を追い詰めてしまった『善き人』のジョンと同様、彼らは個人的には悪人ではない。取り巻きたちの無念さも伝わってくる。
フセイン政権は2003年に崩壊したが、隣国でも最高権力者の世襲が行われつつある今、興味深い題材である。国家が危機的状況にある時に独裁者は生み出され、国民は最初それを必要な存在として受け入れる。今の日本に独裁者はいないが、現在の日本の良い面も悪い面も、結果として私たち一人一人が作ったものと言えるだろう。政治に関心がない人でも実は参加しているのだ。政治への消極的関与についても考えさせられる、お薦め作品だ。(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)
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