2018年07月29日

『泣き虫しょったんの奇跡』お薦め映画

★★★★ 2018年製作 日  (127 min)
【監督】 豊田利晃(空中庭園、青い春、ナイン・ソウルズ、クローズ EXPLODE
【出演者】
松田龍平(長州ファイブ、青い春、恋の門 、昭和歌謡大全集)
野田洋次郎(トイレのピエタ)
永山絢斗(ソフトボーイ、フレフレ少女、クローバー、みなさん、さようなら)
染谷将太、渋川清彦、駒木根隆介、新井浩文
【あらすじ】横浜の小学生・瀬川晶司(しょったん)は、中学3年生の時、東京の奨励会(日本将棋連盟のプロ棋士養成機関)に入会した。 だが奨励会には年齢制限があり、26歳までに四段になれなかった晶司は退会を余儀なくされる。 人生の方向転換をすることになった晶司は、27歳で大学生となるが…。 実話から生まれたヒューマンドラマ。

『泣き虫しょったんの奇跡』象のロケット
『泣き虫しょったんの奇跡』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2018「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会(c)瀬川晶司/講談社

shottan1.jpg 【解説と感想】 昨年2017年、歴代最多連勝記録を更新(29連勝)した藤井聡太棋士はトントン拍子で七段になった。若き大御所・羽生善治棋士は今年2018年に国民栄誉賞を受賞した。2人とも中学生でプロになった天才。今や何度目かの将棋ブームで、棋士が主人公の映画も2016年『聖の青春』、2017年『3月のライオン』、そして2018年の本作『泣き虫しょったんの奇跡』と続いている。本作は羽生善治と同じ1970年生まれの男の、実話から生まれた物語だ。

shottan2.jpg 主人公“しょったん”こと瀬川晶司(松田龍平)は、中学3年で東京の奨励会(日本将棋連盟のプロ棋士養成機関)に入会した。奨励会には年齢制限があり、例外はあるが26歳の誕生日までに四段になれなければ退会となる。三段で停滞した彼は、26歳で退会を余儀なくされた。27歳で大学生になり、卒業後は一般企業に就職。親のすねかじりが続き回り道はしたものの、これで真っ当なサラリーマン生活が送れるはずだったが…。

覚えてらっしゃる方もいるだろう。2005年、アマチュア棋士である35歳のサラリーマン(NEC系企業のシステムエンジニア)瀬川晶司は、日本将棋連盟にプロ入り希望の嘆願書を提出し、61年ぶりにプロ編入試験が行われることとなった。それまでは奨励会の落伍者に二度とチャンスはなかったので、試験が認められたこと自体が奇跡だった。

shottan3.jpg 彼は天才ではない。だからこそ人一倍努力し人付き合いも遊びも一切せず将棋一筋だったかというと、そうでもなかった。年齢制限のプレッシャーから逃げるように、先輩や奨励会の仲間(永山絢斗、染谷将太、渋川清彦、駒木根隆介)と遊ぶこともあった。頑張りたいのに頑張れない。のほほんとしているように見えるが、プロになれるかどうかわからないギリギリのラインにいる者たちの焦りと辛さが、痛いほど伝わって来る青春ドラマである。理解ある父(國村隼)、影響を与えた恩師(松たか子)、プロを目指さなかった親友(野田洋次郎)、奨励会でのエピソードから浮かび上がって来るのは、ひねくれずに育った者が持つ、人の好さである。ある意味それが、勝負師としてはいけなかったのかもしれない。

世の中、望む仕事に就けない人は山ほどいるし、様々な事情で就職が遅れる人もいる。幼い頃の夢を実現できる人の方が少ないのだから、プロ棋士になれなかったからといっても不幸ではない。実際のところ晶司は、奨励会を辞めてから逆に将棋の楽しさに目覚め、アマチュア名人として活躍することとなった。本人も、もう将棋は趣味に留めるつもりでいただろう。

shottan4.jpg プロ入り嘆願書は、現役・元の奨励会員やプロ棋士から反発も受けたはずだ。マスコミに大々的に報じられただけに、失敗したら笑い者になるだろう。合格しても将棋だけではメシが食えないかもしれない。サラリーマンを続ける方が安泰に決まっている。でももし好きな道で生きていけたら、これほど幸せなことはない。何より、奨励会以外からでもプロになれる道を拓いたことは、全国の将棋ファンに強くなる楽しみと夢を与える快挙であった。

浮世離れした天才も人を夢中にさせるが、凡人に天才の真似は出来ない。しかし挫折や絶望、紆余曲折を経て今がある人には味があり、その経験は万人の道しるべとなり共感を呼ぶ。一度は夢破れながらもプロ棋士に再挑戦した、諦めの悪い男の人生ドラマ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
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2018年06月09日

『ワンダー 君は太陽』お薦め映画

★★★★★ 2017年製作 米 (113 min)
【監督】スティーヴン・チョボスキー (ウォールフラワー)
【出演者】
ジュリア・ロバーツ(プリティ・ブライド、ベスト・フレンズ・ウェディング、アメリカン・スウィートハート、ジキル&ハイド) 
オーウェン・ウィルソン(クーデター、ミッドナイト・イン・パリ、エネミー・ライン、ダージリン急行)
ジェイコブ・トレンブレイ(ルーム)
イザベラ・ヴィドヴィッチ、マンディ・パティンキン、ダヴィード・ディグス、ダニエル・ローズ・ラッセル
【あらすじ】人とは違う顔で生まれてきた少年オギーは27回も手術を受け続けたため、ずっと自宅学習を続けていた。 10歳になった時、母イザベルは父ネートの反対を押し切り、5年生の新学期から学校へ行かせることを決意する。 案の定、クラスで孤立し泣いてしまうオギー。 一方、その日は姉ヴィアの高校の初日でもあった…。 ハートウォーミング・ストーリー。 ≪正しさよりも優しさを選ぶ≫
原作:R.J.パラシオ『ワンダー』

『ワンダー 君は太陽』象のロケット
『ワンダー 君は太陽』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)Motion Picture Artwork (c) 2018 Lions Gate Entertainment

wonder1.jpg 【解説と感想】 人は見た目が何割だとか、ちょっと見の数秒で判断されるとか、いろんなことが言われている。男女問わず、化粧したり、服に金をかけたり、美容整形する人が増えたのも、見た目が大事だと感じているからだろう。美しい人は羨望の目で見られ、並みの人は印象に残らず、醜ければ蔑まれると思っているのかもしれない。確かに外見で判断されることもあるが、通常は清潔感やセンスなどの、心がけの部分が大きいのではないだろうか。美しさに惹かれて付き合っても別れることもあるし、ハンサムでも職場で全く使いものにならない奴もいる。

wonder2.jpg 本作の主人公は、10歳の少年オギー(ジェイコブ・トレンブレイ)。彼は遺伝子疾患「頭蓋顔面異常」のため、普通ではない顔で生まれてきた。27回も整形手術を受けたせいで、学校へも通えなかった。おそらく、目・鼻・口が正しく機能することを第一目的とした整形手術だったのだろう。人の視線を避けるため、オギーは外へ出る時は宇宙飛行士のヘルメットを被っている。実際には整った顔立ちの子役が、特殊メイクで「少し」普通でないオギーの顔を作っているが、実際にはもっと大変な、機能的にも支障がある顔の患者は多いのだという。

wonder4.jpg 高校生の姉ヴィア(イザベラ・ヴィドヴィッチ)は、弟のことで両親が大変なことが分かっているので、手のかからない良い子として育った。本当はもう少し自分にも構って欲しいと思っているが、後先考えずにグレたりはしない。思春期のヴィアの悩みについても掘り下げてあり、彼女と親友ミランダ(ダニエル・ローズ・ラッセル)との終盤のエピソードには泣かされた。

父ネート(オーウェン・ウィルソン)の反対を押し切り、母イザベル(ジュリア・ロバーツ)は、オギーを5年生の初日から学校へ行かせることを決断する。このまま一生引き籠り生活を続けさせるわけにはいかないからだ。予想通り、オギーは学校で無視されたり、イジメを受けたりする。子どもは正直な反応を示す。まずは見た目で判断し、ストレートにものを言う。初めてみる「変わった顔」に驚き、興味津々なのだ。そんな子どもたちの態度が、オギーと付き合うことで変化してゆく。

wonder3.jpg 初対面の人は驚くかもしれないが、家族にとってはこの上なく可愛いオギーなのである。他人であっても親しみや好意を持てば、顔の美醜はさほど気にならなくなっていく。親しくなった後は、中身の方が大事だから。実際、スクリーンの中のオギーは、どんどん愛らしくなっていくのだ。しかも優秀! しかし今後オギーがどこへ行こうと、どんなに尊敬される職業に就こうと、程度の差こそあれ同じことは繰り返されるだろう。強くなるしかない。本人もそれはよく分かっている。自分の顔を見て思わず目を伏せる人が、決して悪い人ばかりではないことも。ここではオギーが小学校へ通い始めてからの約1年間に焦点を当て、「頭蓋顔面異常」の子どもの苦悩と、周囲の接し方について問題提起している。見た人の心に優しさを広げてくれる感動ストーリー。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
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2018年03月27日

『心と体と』お薦め映画

★★★★★ 2017年製作 ハンガリー (116 min)
【監督】イルディコー・エニェディ
【出演者】
アレクサンドラ・ボルベーイ
ゲーザ・モルチャーニ
レーカ・テンキ
エルヴィン・ナジ、ゾルターン・シュナイダー、イタラ・ベーケーシュ、タマーシュ・ヨルダーン
【あらすじ】ハンガリーの首都ブタペスト郊外にある食肉処理工場。 臨時の女性食肉検査員マーリアは、人付き合いが苦手で職場に馴染めない。 片手が不自由な男性役員エンドレは、そんな彼女を何かと気に掛けていた。 工場で盗難事件が発生したため、全従業員が精神分析医からカウンセリングを受けることになり、夢の話をきっかけに2人は急接近していく…。 ラブ・ファンタジー。
ベルリン国際映画祭金熊賞、国際批評家連盟賞、エキュメニカル審査員賞、ヨーロッパ映画賞最優秀女優賞、他多数受賞

→『心と体と』象のロケット
『心と体と』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2017(c) INFORG - M&M FILM All rights reserved.

kokoro1.jpg 【解説と感想】夢とはロマンチックなものと思っていたのに、「レム睡眠」や「ノンレム睡眠」、そして精神分析医フロイトの「夢判断」などを学校で習った時は興醒めしたものだ。それでも夢分析に正解はないし、夢で見たことが現実に起こる予知夢のような「正夢」、夢とは逆のことが起こる「逆夢」などを実際体験した日には、夢が神のお告げのような気もしてくる。…考えすぎると楽しい夢が見られなくなってしまうので、この辺で。

kokoro2.jpg 本作の舞台は、次々と牛が解体されていくハンガリーの食肉工場。ところが途中で唐突に、美しい鹿の映像が頻繁に登場してくる。ムムッ、なんだ? と思われるだろうが、その意味は後で分かる。

本作のヒロインは、食肉処理工場の臨時食肉検査員マーリア(アレクサンドラ・ボルベーイ)。 若くて美人だが、人付き合いが苦手で愛想笑いや世間話ができないタイプ。仕事も良く言えば真面目、悪く言えば杓子定規で融通が利かない。いつしか従業員たちは彼女のことを、陰で「白雪姫」と呼ぶようになった(褒め言葉ではない)。

kokoro4.JPG 彼女は、近年世間で認知度を増している発達障害「アスペルガー症候群」のように見える。つまり、優秀な一面もあるが社会性や想像性に欠けており人間関係が苦手で、昔なら「変わり者」扱いされていた人である。ただ、本作では彼女を「発達障害の患者」としてではなく「アスペルガーみたいな人」として描くにとどめている。

そんな、職場で浮いた存在のマーリアのことを、片手が不自由な中年独身男性役員エンドレ(ゲーザ・モルチャーニ)は、何かと気に掛けてやっていた。しかし、マーリアがあまりに愛想がないので会話が続かない。エンドレは大人だから気を悪くしたりはしないのだが、彼自身も食肉工場には多少不似合いな人物に見える。他の従業員とは空気感が違うのだ。

kokoro5.jpg そんな、違うけどちょっと似ている気もする2人は、夢の話をきっかけに急接近してゆく。会話は前より増えたが、どこまでもエンドレは紳士的で、マーリアは愛想がない。このままだとこれ以上は進展しないのではと心配になってくるが、その過程が面白くて、気まずく噛み合わない会話に笑わせられる。

やり手ババア風の掃除係の女性とマーリアとの会話にも爆笑だ。このシーンは、マーリアが無表情な受け答えでスルッと本音を語るし、恋する女性の可愛らしさも出ていて素晴らしいと思う。なお、エンドレ役の俳優はベテランに見えるが、意外なことに映画初出演だという。彼は元編集者で脚本家なのだそうだ。監督によると、「素人でも役にフィットしている」ことが重要なのだとか。これには恐れ入った。

kokoro3.jpg 夢と現実が同時進行しても単なるファンタジーに見えず、地に足がついた感がするのもスゴイ。実は、夢はあまり重要ではないのかもしれない。孤独な男と女が、ぎこちなく愛を育んでいく一風変わったラブ・コメディ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
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2018年01月23日

『シェイプ・オブ・ウォーター』お薦め映画

★★★★★ 2017年製作 米 (124 min)
【監督】ギレルモ・デル・トロ(パシフィック・リム、ヘルボーイ ゴールデン・アーミー、ヘルボーイ、パンズ・ラビリンス)
【出演者】
サリー・ホーキンス(しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス、パディントン2、ブルージャスミン、デザート・フラワー)
マイケル・シャノン(テイク・シェルター、ノクターナル・アニマルズ、THE ICEMAN 氷の処刑人、ドリーム ホーム 99%を操る男たち)
リチャード・ジェンキンス(扉をたたく人、ハンナとその姉妹、モールス、アウトロー)
ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサー
【あらすじ】冷戦時代の1962年、アメリカ。 声が出せない女性イライザは、政府の極秘研究所の清掃員。 清掃中、彼女はアマゾンの奥地で神のように崇められていたという不思議な生き物を見て、心を奪われる。 密かに“彼”と交流を深めたイライザは、実験室で虐待されている“彼”を何とか助けようとするが…。 ラブ・ファンタジー。 
ベネチア国際映画祭金獅子賞

『シェイプ・オブ・ウォーター』象のロケット
『シェイプ・オブ・ウォーター』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation All rights reserved.

shape1.jpg 【解説と感想】自分と全然違うタイプの人間は大変新鮮に映るから、興味を持って接しているうちに、友情→恋愛→結婚へと進んでしまうことがある。結婚後トラブルが発生しても、「自分とは世界が違う人だから」と、案外許せてしまう(我慢できず→離婚となる場合もあるが…)。現実的な話だと、昔なら身分違いの恋、現代なら国際結婚などがそうだ。物語の中だと、古くは神様、妖怪、動物などとの異類婚。近年なら宇宙人や吸血鬼、超能力者との恋愛だろうか。ああ、魅力的な異星人と結婚したい!

shape2.jpg 本作の主人公は、アメリカ政府の機密研究所の女性清掃員イライザ(サリー・ホーキンス)。孤児で声が出せない彼女は、職場と家を往復するだけの地味で慎ましい毎日を送っている。友人は面倒見のいい同僚女性ゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)と、隣のお人好しの老画家ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)だけ。少々不便で寂しいが、不幸ではない。

ある日、ホフステラ―博士(マイケル・スタールバーグ)が運び込んだ不思議な生き物が、研究所のボスであるストリックランド(マイケル・シャノン)に虐待され、ボスに逆襲した。血に染まった部屋の清掃を任されたイライザは、生き物の“彼”(ダグ・ジョーンズ)を見て心を奪われる。ゆで卵で気を惹くうちは単なる餌付けかと思っていたが、同情→友情→恋への進展は早かった!

shape3.jpg “彼”は、アマゾンの奥地では神のように崇められている存在なのだという。目がギョロリと大きく、全身に鱗がある人魚のような二本足の男。奇妙だがグロテスクではなく、ETのような愛嬌があり、ガッシリとした体格で頼りがいがある。衣装もすごいが、メーキャップには2時間から4時間かかったというから、ダグ・ジョーンズの素顔は全く分からない。人間の言葉は話せないものの“彼”には感情と知性があり、不思議な能力を持っている。イライザと“彼”は言葉ではなく、心と心で通じ合っていく。そして驚くことに、関係は更に進展するのだ! エェ〜! と驚かされるが、この2人なら…許せる。

時代は冷戦期。“彼”もアメリカとロシアの威信をかけた戦争に巻き込まれてしまう。人魚男と人間女性の恋というだけで十分ハードルが高いのに、ボスからも国家からも狙われる2人。しかし、きな臭い現実を前にしても、イライザと“彼”は(それどころではないのに)夢の世界に浸りきっている。果たして彼らの命と恋の行方は…?

shape4.jpg 失礼ながらそんなに若くない(41歳)サリー・ホーキンスが、本作では恋して夢見る乙女になりきっている。女性が恋をして、強く美しくなっていく様子は、見ていていいものである。水中でのツーショットは幻想的だ。彼女は3月の同時期に公開となる「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」でも、地味だが恋に積極的な女性主人公を演じている。どちらも甲乙つけがたいほどの名演で、不思議な魅力のある女優だなと思う。孤独な女と神様かもしれない男のユニークな異類恋愛譚。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
posted by 象のロケット at 22:30| 超お薦め映画作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月22日

『スリー・ビルボード』お薦め映画

★★★★★ 2017年製作 英・米 (116 min)
【監督】マーティン・マクドナー(セブン・サイコパス)
【出演者】
フランシス・マクドーマンド(スタンドアップ、バーバー、容疑者、バーン・アフター・リーディング)
ウディ・ハレルソン(ラリー・フリント、ゾンビランド、ナチュラル・ボーン・キラーズ、猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー))
サム・ロックウェル(ウェルカム トゥ コリンウッド、月に囚われた男、コンフェッション、マッチスティック・メン
アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ
【あらすじ】アメリカ・ミズーリ州の田舎町エビング。 さびれた道路沿いの広告看板に、地元警察の署長ウィルビーを批判するメッセージが表示される。 それは、7ヶ月前に娘を殺された母親ミルドレッドが、進展しない捜査に腹を立てて出した広告だった。 人望あるウィルビーを攻撃したことで、ミルドレッドは非難を浴びることに…。 クライム・サスペンス。
トロント国際映画祭観客賞、ベネチア国際映画祭脚本賞

『スリー・ビルボード』象のロケット
『スリー・ビルボード』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation All rights reserved.

three1.jpg 【解説と感想】ひったくり、盗撮、ストーカー、レイプ、拉致監禁、殺害、人身売買…等、女性は常に犯罪の被害者になる危険にさらされている。しかし、露出の多い服を着るな、夜遅くまで出歩くな、男性と2人きりになるな、という親の注意を聞き入れる若い女性がどれほどいるだろうか。

さて、本作の主人公は、中年女性ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)。彼女の娘は7か月前、夜道でレイプされた挙句に殺害された。犯人はまだ見つからない。業を煮やした彼女はなけなしの金で広告会社と契約し、道路沿いの広告看板に「レイプされて死亡」「なぜ? ウィロビー署長」「犯人逮捕はまだ?」という思い切ったメッセージを掲示する。

three2.jpg 本来なら世間の同情を一身に集めるはずのミルドレッドという女性、全く可哀想に見えない。女らしさも愛想もなく、毒舌家でケンカっ早く、見た目も凶暴な中年オヤジのよう(戦闘鉢巻のようなバンダナはイカしてるが)。一方、彼女が批判した地元の警察署長ウィロビー(ウディ・ハレルソン)は住民や部下から敬愛されており、町の誰もが彼女に広告を止めさせようと働きかける。

3枚の屋外広告(スリー・ビルボード)によって、ミルドレッドの立場は被害者の母親から、乱暴者の加害者へとすり替わってしまう。作品中では、この「見方が変わる」というポイントが随所に現れていて、先が読めない面白さがある。

three3.jpg ミルドレッドの行動はエスカレートしていき、もはやテロ。だんだん同情できなくなっていく。意外なことに、彼女の胸の内を一番理解しているのは、大迷惑を被った被害者(?)の署長ウィロビーなのだ。彼だって捜査を怠っていたわけではない。ただし、彼の部下ディクソン(サム・ロックウェル)は怒りが収まらず、ミルドレッドの天敵と化す!

物語は早く犯人を逮捕しろと急かす広告から始まる。しかし、警察批判、人種差別、村八分、家庭不和、不治の病、暴力事件など、魅力的な回り道がいっぱいあって、なかなか犯人探しが進まない。果たして事件は解決するのか?

three4.jpg 警察が真剣に捜査しても、家族がビラ配りをしても、マスコミが繰り返し報じても、懸賞金があっても、迷宮入りしてしまう事件は多々あり、被害者家族は、無念の思いをどこにもぶつけられずにいる。前へ進めない人もいるだろう。普通、ミルドレッドのような行動を起こす者はいないのだ。本作のテーマは重いし、署長の行動も重い。だが、作品全体がブラックな笑いに包まれている。ぶっ飛んだ事件が次から次へと発生し、毒舌合戦にはキレがあり、悲しい場面でもしんみりさせてくれない。これはいったい、どういったジャンルの作品なのかと観客を迷わせる。

ところが、私たちが予想だにしない結末が待っている。本作がどんな作品なのかは、最後まで見なければわからない。西部劇の一匹狼のような風貌の母親を演じるフランシス・マクドーマンド、物わかりのいい人情派の署長役のウディ・ハレルソン、浅はかな白人警官役のサム・ロックウェル、彼らの見事な演技に圧倒され引き込まれる、シリアスでユーモアたっぷりのクライム・サスペンス。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
posted by 象のロケット at 20:28| 超お薦め映画作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする