2017年10月05日

『斉木楠雄のΨ難』お薦め映画

★★★★ 2017年製作 日 (97 min)
【監督】福田雄一(銀魂、コドモ警察、大洗にも星はふるなり、俺はまだ本気出してないだけ)
【出演者】
山崎賢人(氷菓、ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章、アナザー Another、オオカミ少女と黒王子)
橋本環奈(セーラー服と機関銃 -卒業-、銀魂、ハルチカ、映画 暗殺教室)
新井浩文(奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール、百円の恋、青い春、血と骨)
吉沢亮、笠原秀幸、賀来賢人、ムロツヨシ
【あらすじ】生まれつきとんでもない超能力者である高校生・斉木楠雄(さいきくすお)。 普通の生活を送りたい彼は、誰にもその能力を知られないよう、超能力を使って平凡な高校生のフリをしていた。 文化祭も目立たず静かにやり過ごしたいと願っていたが、個性的なクラスメイトたちのせいで災難続きに…。 人気コミック実写劇場版。 ≪やれやれ、たかが文化祭で、地球滅亡の危機とはな。≫
原作:麻生周一

『斉木楠雄のΨ難』象のロケット
『斉木楠雄のΨ難』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)麻生周一/集英社・2017映画「斉木楠雄のΨ難」製作委員会

sainan1.jpg 【解説と感想】各種才能、身体能力、美貌、その他で、凡人とは比較にならないほど抜きん出ている人を、私たちは称賛し尊敬や憧れの気持ちを抱く。しかし「次元が違う」演技でオリンピック金メダルを獲得したフィギュアスケートの羽生結弦選手が、もし50回転ジャンプに成功したら、観客は誰一人拍手せず凍り付き、スケートリンクが静まり返ることだろう。神技にも限度というものがある。

sainan2.jpg 本作の主人公・斉木楠雄サイキクスオ(山崎賢人)は、様々な超能力を持っている高校生。だが、目立たず普通の生活をしたい彼は、自らの能力を使って敢えて平凡な高校生のフリをしている。超能力者集団の「X-MEN」や、先日公開された、生死を繰り返す「亜人」のように、バレたら迫害される恐れがあるから当然だろう。だが残念ながら、どんな超能力を使っても斉木楠雄は普通の高校生にはなれない。「持っている男」はつらいよ、だ。

sainan3.jpg 彼の周囲は個性派揃い。自他共に認める学園一の美少女・照橋心美テルハシココミ(橋本環奈)、オッサンじみたバカ・燃堂力ネンドウリキ(新井浩文)、中二病の妄想美少年・海藤瞬カイトウシュン(吉沢亮)、暑苦しい熱血委員長・灰炉杵志ハイロキネシ(笠原秀幸)、元暴走族総長の過去をひた隠す窪谷須亜蓮クボヤスアレン(賀来賢人)、イリュージョニスト蝶野雨緑チョウノウリョク(ムロツヨシ)、エロ校長・神田品介カンダビンスケ(佐藤二朗)、息子の超能力に鈍感な両親(田辺誠一・内田有紀)等、世話の焼ける困った奴ばかり。彼らをピンチから救おうとすると、超能力使いっぱなしになってしまう。ポーカーフェイスのようで斉木楠雄、かなりお人好しなのである。

斉木楠雄を演じている山崎賢人はコミックの実写劇場版に多数出演しているが、私は本作が今までで一番彼に合っているんじゃないかと思った。顔立ちと体型も高校生として違和感はない。どピンクの髪も頭に差しているペロペロキャンディーのようなアンテナも似合っている。フテ腐れて冷めきった表情が笑わせる。

照橋心美の勘違い美少女ぶりもすごい。自意識過剰なモテ女は決してへこたれない! そして私が一番ウケたのは、斉木楠雄とは対照的な熱血漢・灰炉杵志。ド根性男は決してへこたれない! 両者とも素晴らしかった!

sainan4.jpg 何せ福田雄一監督作品である。誰もが笑いを求めて劇場へ行くことだろう。結果は、期待を裏切らずギャグ感満載! 30代40代が高校生を演じていても気にならない。誰もが役に成り切っている。あり得ないキャラクターとストーリーだが、バカバカしいとは感じずガッツリ笑えた。超能力少年のΨ難(サイナン)続きの文化祭当日を描く、SF青春ギャグ・コメディ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
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2017年09月13日

『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』お薦め映画

★★★★ 2017年製作 日 (100 min)
【監督】大根仁 (SCOOP!、モテキ、バクマン。)
【出演者】
妻夫木聡(スマグラー おまえの未来を運べ、ぼくたちの家族、ウォーターボーイズ、感染列島)
水原希子(高台家の人々、ノルウェイの森、進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド、進撃の巨人 ATTACK ON TITAN)
新井浩文(斉木楠雄のΨ難、百円の恋、青い春、血と骨)
安藤サクラ、江口のりこ、天海祐希、リリー・フランキー
【あらすじ】おしゃれなライフスタイル雑誌編集部に異動になった35歳の男コーロキは、ミュージシャンの奥田民生のように「力まないカッコいい大人」の編集者になろうと決意した! そんな時、ファッションプレスの美女・天海あかりにひとめぼれ。 あかりに釣り合う男になろうと頑張るが、彼女に振り回されて身も心もズタボロになってしまう…。 ラブ・コメディ。
原作:渋谷直角 脚本:大根仁

『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』象のロケット
『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2017「民生ボーイと狂わせガール」製作委員会


kuruwase1.jpg 【解説と感想】本作は女にのめり込む男の話である。振り回すのも振り回されるのも、本人たちが幸せなら何も言うことはない。ただしトラブル発生時は要注意。恋愛に加害者も被害者もないはずだが、いわゆる被害者はトコトン落ち込んで(あるいは逆上して)いるのに対し、いわゆる加害者には罪の意識があまりないのが世の常である。どんな形であれ、恋が始まったことや終わったことを、当事者以外の誰も非難はできないはずだ(週刊誌は散々騒いでいるが…)。

主人公コーロキ(妻夫木聡)は、地味な雑誌からオシャレなライフスタイル誌に異動してきた33歳の男。彼は、ミュージシャンの奥田民生(52歳)のような、「頑張らない、さりげなくカッコいい男」を目指している。奥田民生ってどんな人? どこがさりげなくってカッコイイの? って追及はしないでおこう。一応、コーロキが説明してくれる。

kuruwase2.jpg しかし、コーロキはファッションブランドのプレス担当の美女・天海あかり(水原希子)に一目ぼれ。彼女に振り回されて「さりげない」どころか「なりふり構わず」の毎日を送ることになってしまう。あかりは美人でスタイルも抜群、ファッションセンスもピカイチで、長―い脚にミニスカートとハイヒールがよく似合う(あんたモデルかい? 仕事出来るの? なんて野暮は言わない)。笑顔は悶絶するほど愛らしいが、ワガママで怒ると恐ろしい! 男はぞっこんメロメロだ。

もう一人、コーロキを振り回す人物がいる。人気コラムニストの美上ゆう(安藤サクラ)。ただでさえ遅筆なのに一つのことが気になると原稿が進まないタチで、いちいちそれに付き合ってやらねばならない面倒な女。原稿が間に合うのか、間に合わないのか、コーロキにハラハラドキドキのジェットコースター気分を味合わせてくれる。

kuruwase3.jpg 編集長・木下(松尾スズキ)は穏やかで頼り甲斐のある上司で、先輩・吉住(新井浩文)は何を考えているのか分からない怪しい人物。編集部で揉まれながら、コーロキはあかりに釣り合う「出来る男」になろうと、仕事の方も頑張っている。ただ、あかりはいつも「あかり最優先」でないと気が済まない女王様だから、両立の道は険しい。近年、仕事よりプライベートの方が大事だと公言する男性が増えていて、会社の行事や上司からの酒の誘いはもちろん、残業なども平気で断る強者が増えているらしい。「奥田民生」を目指すならば、コーロキはどうするべきなのか…? 

kuruwase4.jpg ところで、あかりに惚れているのは、実はコーロキだけではなかった。これだけの美女、アッサリ手に入る方がおかしい。あかりはコーロキだけを愛してくれる、実は純情な女の子なのだろうか? それとも、何の罪悪感なく男を手玉に取るプレイガールなのか? 笑顔で手を振るあかりを見れば、ああもう、この先どうなってもいーから、魔性の女に振り回されたーい! と思って当然。 一度はズタボロになったっていいじゃないか。
女に狂い惚れする男たちと、男を振り回す女たちの演技が面白すぎるラブ・コメディ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
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2017年09月05日

『ダンケルク』お薦め映画

★★★★★ 2017年製作 米 (106 min)
【監督】クリストファー・ノーラン(メメント、ダークナイト ライジング、ダークナイト、インターステラー)
【出演者】
フィオン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデン、ハリー・スタイルズ、アナイリン・バーナード、ジェームズ・ダーシー、バリー・コーガン
【あらすじ】第二次世界大戦中の1940年。 ナチスドイツのフランス侵攻により、40万人ものイギリスとフランスの連合軍兵士たちは、ドーバー海峡に面したフランス北端の港町ダンケルクまで追い詰められていた。 圧倒的な数のドイツ敵軍が迫る中、民間船までもが関わった史上最大の救出作戦が動き出す…。 実話から生まれた戦争アクション。

→『ダンケルク』象のロケット
→『ダンケルク』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. All rights reserved.

dunkirk1.jpg 【解説と感想】先日の早朝、北海道上空をミサイル通過し、太平洋上に落下した。朝のニュースからは緊迫感が伝わってきたが、何をどうすることもできないので、普通に試写に出かけた。電車も思ったほど遅れず、いつもと変わらない一日だった。その後の報道も大騒ぎだったが、あっという間に収束した。平和ボケしている私たちは、そんなに簡単に戦争が始まるとは思っていない。今を「戦前」だったと思い返す、「戦中」「戦後」が、いつかやって来るのだろうか…。

dunkirk2.jpg 本作は第二次世界大戦中の実話から生まれた物語で、「ダンケルクの戦い」とは、ナチスドイツのフランス侵攻によって、フランス北端の港町ダンケルクに追い詰められたイギリスとフランスの連合軍兵士40万人の救出作戦のことである。時はドイツに勢いがあった頃の1940年5月24日。連合軍はここで戦っても勝ち目はないと撤退を決めたものの、全員が乗るだけの船はない。空からは攻撃を受けている。さて、どうするか? 

dunkirk3.jpg ここでは誰一人自決などしない。これが最後ではないからだ。一旦退くのは次の戦いに備えるためで、まだまだ兵士たちには働いてもらわなくてはならない。とは言え、若い兵士の頭にあるのは生きて祖国へ帰ることだけ。猛烈に腹も減っている。40万人とはすごい人数で、「史上最大の」救出作戦と言われている。

dunkirk4.jpg 陸では、大勢の連合軍兵士が、心細い思いで救出を待っている。空では、ドイツ軍の爆撃機を味方のパイロットが追い払おうと必死で戦っている。沖合では墜落したパイロットが助けを待っている。港では全員を乗せられないと艦長が険しい表情をしている。そして、祖国イギリスからは、救出船が足りないとの連絡を受けた民間船が、戦地ダンケルクへ向かっている。まさに、陸海空の大掛かりな救出作戦である。ダンケルクからイギリスまでは、ドーバー海峡を隔ててわずか42キロ程らしいが、負傷し追い詰められた兵士たちには、気が遠くなるほど遠く感じられたことだろう。

dunkirk5.jpg 印象的なのは、民間船の船主の、「若者を戦地へ行かせた責任を取らねばならない」という言葉。彼の息子も出征しているらしい。そう、いつも戦争で死ぬのは前途ある若者で、戦争を始めるのは、決して戦地へ行くはずもない年取った大人なのだ。日本も元気で優秀な若者を戦争で大勢失った。

群像劇なので、誰が主人公と言うよりも、「監督クリストファー・ノーラン」がバーンと前面に出ている。見る前から「映像がすごい」などと、イメージが刷り込まれてしまっていた。見たところ、確かに「すごい」映像で臨場感がある。大きなスクリーンで見た方が満足度も高いだろう。しかし、やはり人あってのドラマである。兵士たちの憔悴しきった表情に、それでも生きようとする姿に、味方を守ろうとする頑張りに、命がけで救出に向かう心意気に、私たちは心を動かされるのだ。

dunkirk6.jpg 日本・ドイツ・イタリアの三国同盟が締結されたのは、このダンケルク救出作戦後の1940年9月27日。第二次世界大戦では連合軍は日本の敵だったが、今の日本でそんなことを気にしている人はいないだろう。この時の、ドイツ軍、フランス軍、イギリス軍の内部事情はそれぞれあるらしいが、そんなに気にしなくてもいいと思う。史実より映画そのもの、イギリス人監督が描く「英国人の誇り」を、純粋に褒め称えたくなる戦争ドラマ。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
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2017年07月08日

『世界は今日から君のもの』お薦め映画

★★★★ 2017年製作 日 (106 min)
【監督】尾崎将也
【出演者】
門脇麦(こどもつかい、14の夜、太陽、オオカミ少女と黒王子)
三浦貴大(監禁探偵、繕い裁つ人、桜並木の満開の下に、RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語)
比留川遊(最後の命)
岡本拓朗、安井順平、駒木根隆介、マキタスポーツ
【あらすじ】引きこもりがちな毎日を経て、ようやく始めたアルバイトをクビになった女性・真実。 ニート生活に戻ることを心配した父は、娘に新しいバイト先を見つけてくる。 それは新作ゲームをプレイして、バグ(欠陥)がないかチェックする“デバッカー”という仕事だった。 そこで真実は、思わぬ才能を開花させる…。 青春ドラマ。 ≪笑顔まで、あと少し。≫

『世界は今日から君のもの』象のロケット
『世界は今日から君のもの』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)クエールフィルム

kiminomono1.jpg 【解説と感想】学生ならば学校へ行かず、成人ならば仕事をせず、自分の部屋からほとんど出ない「引きこもり」人口は増加の一途だという。引きこもりと似ていて少し違うのが、引っ込み思案や内気な性格。極度の引きこもりは生活が立ちいかなくなるので直した方がいいが、引っ込み思案や内気なのは個性だから、無理に変えなくてもいいのではないかと思う。

本作の主人公・真実(門脇麦)は、引きこもり生活から一歩前進しアルバイトを始めたが、笑っちゃうような事故のせいでクビになる。娘が再び引きこもっては大変だと、父(マキタスポーツ)は早々に新しいバイト先を見つけてくる。それは新作ゲームをプレイして不具合を探す「デバッカー」という仕事で、一日中ほとんど誰とも話さず大好きなゲームが出来るというもの。引きこもり先が自分の部屋から勤務先のゲーム会社に変わっただけのようにも見えるが、ゲーム会社にとっては重要な仕事だし、ちゃんと給料がもらえる。真実には打ってつけの仕事だった。

ひょんなことから、彼女にイラストを描く才能があることが発覚する。自室に引きこもっている間、彼女はゲームをしたり、絵を描いたりしていたのだ。どんな人生にも無駄はないということだろうか。しかし、イラストが本業になるかはまだわからない…。

kiminomono2.jpg 真実がイラストを描くきっかけになったのも、彼女の才能に気づいたのも、ゲーム会社の製作部ディレクター矢部遼太郎(三浦貴大)。真実が遼太郎に好意を持つのは当然かつ自然な流れなのだが、この2人の距離感が絶妙で三重マルなのである。いいなー、この描き方! 三浦貴大にも改めて注目してしまった。


kiminomono3.jpg もう一人、彼女に大きくかかわるのが安藤恵利香(比留川游)という男前な女性。真実と恵利香が出会うサバゲー(サバイバルゲーム)シーンは見せ場の一つ。二人の性格は正反対だが、違いすぎるから相手の欠点が気にならないのだろう。娘に恵利香のようなしっかり者の友人が出来たと知ったら、父親は泣いて喜ぶはずである。

真実のファッションは、すべて古着から選んだのだという。内気だがイラストが得意な真実らしく、多色使いでも派手にならない大人しい感じのガーリーなコーディネート。若い子なら真似したくなるだろう。監督がイメージしたのは「アメリ」のような風変わりな女の子というから、ピッタリだ。カッコよすぎるサバゲーの衣装も、似合わないようで似合っている。

kiminomono4.jpg 自分の定規を押しつけがちな母親(YOU)を除き、真実の周囲の人間はみな、不器用で引っ込み思案な彼女の性格を理解して、遠巻きに応援している。あまり近くに寄ると、彼女は逃げ出してしまうだろう。先を急がないストーリー展開にも好感が持てる。登場人物がみな個性的で、セリフの言い回しや表情が面白い。何より女優・門脇麦の良さが存分に生かされていると感じられる作品だった。元ひきこもりの女の子が少しずつ成長してゆく、ユーモラスなハートウォーミング・ストーリー。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
 
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2017年05月27日

『光』お薦め映画

★★★★★ 2017年製作 日 (102 min)
【監督】河瀬直美(七夜待、2つ目の窓)
【出演者】
永瀬正敏(KANO 1931海の向こうの甲子園、スマグラー おまえの未来を運べ、誘拐、隠し剣 鬼の爪)
水崎綾女(ReLIFE リライフ、進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド、進撃の巨人 ATTACK ON TITAN、BUNGO 〜ささやかな欲望〜 見つめられる淑女たち)
神野三鈴(日本のいちばん長い日)
小市慢太郎、早織、大塚千弘、大西信満
【あらすじ】ディスクライバー(音声ガイド原稿制作者)の尾崎美佐子は、視覚障害者向けの映画音声ガイドの仕事に携わることになった。 そこで視力を失いつつある弱視の天才カメラマン中森雅哉と出会う。 表現に細かく注文を付ける雅哉に反発する美佐子だったが、彼が過去に撮影した写真を見て心を動かされる。 しかし音声ガイドの方は、何度書き直しても皆が納得するものができないのだった…。 ラブ・ストーリー。

『光』象のロケット
『光』作品を観た感想TB

画像Copyright:(C)2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

hikari1.jpg 【解説と感想】例えば駅の中を歩く人の中で、一目で身体障害者と分かるのは、足の不自由な人と目の不自由な人だ。なぜなら、車椅子や松葉づえ、白い杖は目立つから。耳の聞こえない人、声が出せない人、内臓疾患を抱える人は、見た目からはわからない。見た目で分かる障害者と分からない障害者には、どちらにも犯罪や事故に遭う危険がある。東京オリンピックへ向けて工事中の駅が多いが、まだまだバリアフリーにはほど遠い世の中だ。今回の作品には、目が見えない人も映画を楽しめる「音声ガイド付きバリアフリー上映」に携わる人々が登場する。

本作の主人公は、かつては天才カメラマンとして知られた存在だった中森雅哉(永瀬正敏)。彼は急激に視力が低下していて、完全に見えなくなる日がもうそこまで来ている。声が出ない歌手、音が聞こえないオーケストラ指揮者、足が不自由なサッカー選手と同じく、その苦悩たるや絶望に近いものがあるだろう。撮影への意欲と執着を捨てきれないでいる彼は、片時もカメラを手放すことができない。

hikari2.jpg 他の視覚障害者と共にバリアフリー映画のアドバイスもしている雅哉は、ディスクライバー(音声ガイド原稿制作者)の尾崎美佐子(水崎綾女)と出会う。彼女は精一杯頑張っているのだが、いかんせん未熟さが目立つ。それは仕事の経験というより、若くて人生経験が足りないせいだと言えるだろう。音声ガイドを利用する人の立場になって原稿を書くことが、まだ出来ずにいるのだ。そこを痛いほど的確に突いてくる雅哉の意見は辛辣で、美佐子を苛立たせる。

外国映画が日本で上映される場合、吹替とは別に、台詞が日本語になっただけの字幕スーパーがあるが、それとは別に、もっと分かりやすく細かい配慮がなされた難聴者向けの字幕がある。そして、視覚障害者向けには、音声ガイドというものがある。本作は、あまり知られていない音声ガイドの仕事が良く分かる内容になっていて、視覚障害者の手助けになりながらも邪魔をしない程度の音声原稿に仕上げるまでの過程が、丁寧に描かれている。美佐子自身が、担当する映画作品、そして目が見えない人のことを本当の意味で理解していなければ、映画製作者と視覚障害者が満足するような音声原稿は作れない。試写シーンで披露される、美佐子を悩ませた場面の最終稿は感動的で、映画と劇中劇がピタリと重なって見えた。

hikari3.jpg 雅哉を演じる俳優・永瀬正敏の演技が素晴らしい。彼は写真家としても活動しており、プライドが高い天才カメラマンのアーティスト・オーラを醸し出している。渋さとカッコよさが混在していて、美佐子が惹かれていくのも納得だ。一見、似合わない2人が近づいていく過程といい、全体が自然な流れで割とゆったりした印象なのに102分という尺なのは、ストーリーがシンプルだからだろう。暗闇の世界に向かいつつある男のラブ・ストーリー。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
posted by 象のロケット at 10:11| Comment(0) | TrackBack(3) | 超お薦め映画作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする