2015年06月02日

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』お薦め映画

★★★★★ 2015年製作 オーストラリア・米 (120 min)
【監督】ジョージ・ミラー(マッドマックス、マッドマックス2、ハッピー フィート、ベイブ・都会へ行く)
【出演者】
トム・ハーディー(チャイルド44 森に消えた子供たち、オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分、ダークナイト ライジング、スター・トレック ネメシス)
シャーリーズ・セロン(スタンドアップ、モンスター、ヤング≒アダルト、マイティ・ジョー)
ニコラス・ホルト(ウォーム・ボディーズ、ジャックと天空の巨人、アバウト・ア・ボーイ、X-MEN ファースト・ジェネレーション)
ヒュー・キース・バーン、ゾーイ・イザベラ・クラヴィッツ、ロージー・ハンティントン・ホワイトレイ、ライリー・キーオ
【あらすじ】電力はなく、石油、水、食糧は尽きかけ、大気は汚染され、無法地帯と化した世界。 愛する家族を失った元警官マックスは、ただ本能だけで生き長らえていた。 資源を独占し、恐怖と暴力で民衆を支配するジョーの略奪軍団に捕われたマックスは、ジョーの右腕でありながら反逆を企てた女性フュリオサ、配下の全身白塗りの男ニュークスと共に、ジョーに捕われていた美女たちを引き連れ、自由への逃走を開始する…。 バイオレンス・アクション。 R-15

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』象のロケット
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』作品を観た感想TB

画像(C)2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED All rights reserved.

madmax1.JPG 【解説と感想】主演作の公開が相次ぎ、ノリにノッている俳優トム・ハーディ。
6月27日公開「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」は、一人芝居のようなワンシチュエーション・サスペンス。終始緊張が途切れない演技は見事だった。
7月3日公開「チャイルド44 森に消えた子供たち」は、連続誘拐殺人事件の話。ソ連エリート捜査官の、悪に立ち向かう執念を見せつけてくれた。
そして、6月20日公開の本作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」では、主人公マックスを演じている。しばらくは猿ぐつわで拘束されていて顔が良く見えないが、その隙間から、絶望した男の孤独感を漂わせている。それでも彼はまだ、死にたくはないようだ。

madmax2.jpg 放浪中のマックスは、砂漠でイモータン・ジョー率いる略奪軍団に拉致され、健康な血液を採取するための家畜人間にされてしまう。そこにはニュークス(ニコラス・ホルト:白塗りで顔がよく分からない!)ら、イカレた白塗りの戦闘員“ウォー・ボーイ”たちがいる。片腕のない女隊長フュリオサ(シャーリーズ・セロン:坊主頭と黒塗りで顔がよく分からない!)はジョーを裏切り、“子産み女”として囲われていた美女たちと共にジョーのディストピア(暗黒郷)を逃げ出し、緑のユートピア(桃源郷)を目指す。男たちは、女たちをどこまでもどこまでも追いかけていく。

madmax3.jpg これまでの経過説明がないので、一応過去の「マッドマックス」シリーズの内容を説明すると、警官だったマックスは妻子を殺されてから放浪の旅を続けており、世界は核戦争で既に崩壊し、資源は枯渇している。だが、過去作を見ていなくても十分楽しめるので、ご安心を。資源が尽き環境が悪化した世界だというのに、戦闘車やバイクが走る走る。戦士たちは捨て身で飛び掛かって来る。なぜか戦場でギター演奏が始まる。ガソリンどこで手に入れたのー? 体力ないんじゃなかったのー? 楽器がなんで火を吹くのー? 美女たちオシャレすぎー! 何食べて生きてんのー? なんて突っ込みも頭に浮かぶが、とにかく爆音の中、ずーっと“アドレナリンMADMAX”で闘っているので、息つく暇はないのである。

madmax4.JPG 何もない世界でも、ジョーは豊かな生活を送り、庶民は水すら満足に飲めない。暴力への恐怖と物資への渇望が、人を支配し動かしている。文明社会が崩壊してもなお、支配する側とされる側の力関係は変わらないのだ。だが絶望だけでは生きていけない。戦うだけの毎日を送っていた女戦士フュリオサと、子を産まされるだけだった美女たちは、自由を求めて戦うことを選んだ。一方、放浪しているだけの男マックスは、わずかばかり残った正義感で悪と戦うことを選んだ。しかし、ユートピアなんて本当にあるのだろうか? 私たち現代人に、何かを伝えているようにも見える。 

本作は難しいこと抜きで、とことん欲望・暴力VS希望・正義の命がけのアクションを楽しむ作品だ。CGよりリアルなアクションを重視したという砂漠での戦闘シーンは凄まじく、まさに地獄行きのデスロード! 男たちは狂ったように攻撃を仕掛けてくる。鑑賞中はクヨクヨした悩みなぞ、パッキーンと吹っ飛んで行ってしまう。ストレス解消度もMADMAXのアクション大作。お薦め作品だ。※鑑賞後は暴走注意! 安全運転でお帰り下さい。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)

 
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2015年05月07日

『チャッピー』お薦め映画

★★★★★ 2015年製作 米・メキシコ (120 min)
【監督】ニール・ブロムカンプ(第9地区、エリジウム)
【出演者】
シャールト・コプリー(第9地区、マレフィセント、特攻野郎 Aチーム THE MOVIE、エリジウム)
デーヴ・パテル(スラムドッグ$ミリオネア、エアベンダー、マリーゴールド・ホテルで会いましょう)
ニンジャ
ヨーランディ・ヴィッサー、ホセ・パブロ・カンティージョ、ヒュー・ジャックマン、シガニー・ウィーバー
【あらすじ】2016年、犯罪多発地区の南アフリカ・ヨハネスブルグ。 兵器企業テトラバール社の開発者である青年ディオンは、自分自身で“感じ、考え、成長する”AI(人工知能)を、上司に無断でロボットに搭載する。 ところが、ディオンとそのロボット“チャッピー”は、ストリート・ギャングに誘拐され、まっさらな状態のチャッピーは、ギャングの“子ども”として育てられる。 やがて、チャッピーは“人類の敵”として狙われることに…。 SFアクション。

『チャッピー』象のロケット
『チャッピー』作品を観た感想TB

画像(C)2014 CTMG, Inc. All rights reserved.

chappie4.jpg 【解説と感想】仕事が出来る人ほど、不可能に挑戦してみたくなるものらしい。腕試ししたくても、ニセ札作りや盗聴やハッキングは犯罪だ。臓器移植やクローン技術や美容整形は、病気や怪我で苦しむ人を助けられるが、倫理的な観点から異議を唱える人もいる。ではAI(人工知能)はというと、現在は “考える”家電や作業用ロボット、データ分析ツールとして活躍中。更に進化し“自由意思”を持ってしまったAIは、人類の敵か、味方か? という問題を投げかけるのが本作「チャッピー」である。

chappie2.jpg 犯罪多発地域の南アフリカ・ヨハネスブルグでは、治安維持に兵器ロボットが大活躍している。ロボットを開発した青年ディオン(デーヴ・パテル)は兵器会社テトラバール社のエース的存在で、同僚の科学者ヴィンセント(ヒュー・ジャックマン)から妬まれている。ある日、更なる開発実験の誘惑に駆られたディオンは、上司(シガニー・ウィーヴァー)に無断で、スクラップ寸前のロボットにAI(人工知能)を搭載させてしまう。

chappie1.jpg 人工知能は自分で“感じ、考え、成長する”が、最初は初期化したパソコンと同じで、まっさらな赤ちゃん状態。チャッピーの“創造主”である開発者ディオンは、人間の良心を叩きこみ、じっくり「良い子」に育てる予定だったが、チャッピーはストリート・ギャングに誘拐されてしまう。“ママ”である“ヨーランディ”からは優しさや愛を、“パパ”である“ニンジャ”からは荒っぽいギャングの言葉や盗みを教えられ、少々「悪い子」に育ってしまった。(パパ・ママを演じているのは南アフリカのラップグループ「ダイ・アントワード」のメンバーで、それぞれのアーティスト名が役名になっている。)

まず面白いのは、チャッピーの成長過程である。「第9地区」でお馴染みの俳優シャールト・コプリーが、モーションキャプチャー技術を駆使して演じているチャッピーの動きと声がユニークで微笑ましい。ロボットなので見た目の大きさは同じなのに、赤ちゃんから少年、逞しい青年へと成長していく様子がよくわかる。赤ちゃんチャッピーはムチャクチャ可愛いくて、私もペットとして一匹欲しくなった。金儲けに利用するつもりだったパパとママが、次第にチャッピーに情が移っていくのも無理はない。

次に、時代設定が来年の2016年であることが、AIロボットの是非について考えさせてくれる。人間よりずっと丈夫でずっと学習能力の高いロボットが、人間の指示で動いている間は「味方」だが、感情まで持ってしまったら、天使にも悪魔にもなり得る。人間よりも能力があって人間が制御出来ないものは「敵」と見なされるのがSF映画のお約束。しかし現実社会では、人間の経験や判断を差し置いて、今やAIが膨大な蓄積データから割り出した未来予測が、各分野で活用されつつある。人類がAIに凌駕される日が、本当にやって来そうなのだ。クローンを作れても作らないという医療倫理と同じく、そろそろ人間とロボットの役割区分や線引きをはっきりさせるべき時が来ているのかもしれない。

chappie3.jpg 終盤の光景は、かなり衝撃的だ。ワクワクもするし、怖い気もする。ひょっとしたら、もうこんなロボットが世界のどこかにいるのではないかと思えてくる。「第9地区」と同じく、次回作を期待させる思わせぶりな終わり方だった。人間が作って育てたAIロボット・チャッピーが人間を変え、更にはロボット自体を変えていく、恐るべき近々未来SFアクション。お薦め作品だ。
(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
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2015年04月02日

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』お薦め映画

★★★★ 2014年製作 米・カナダ (120 min)
【監督】アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(バベル、BIUTIFUL ビューティフル、21g)
【出演者】マイケル・キートン(ビートルジュース、クローンズ、ザ・ペーパー、バットマン)
ザック・ガリフィアナキス(ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い、ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える、スパイアニマル・Gフォース、デュー・デート 出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断)
エドワード・ノートン(幻影師アイゼンハイム、25時、僕たちのアナ・バナナ、インクレディブル ハルク)
アンドレア・ライズブロー、エイミー・ライアン、エマ・ストーン、ナオミ・ワッツ
【あらすじ】シリーズ終了から20年経った今でも、世界中で大人気のスーパーヒーロー映画“バードマン”。 だがバードマン役で大スターになった男リーガンは、仕事も家庭も失い失意のどん底にいた。 リーガンは再起をかけ、自身の脚色・演出・主演でブロードウェイの舞台に立つことを決意する。 ところが俳優の一人が降板。 代役として現れたマイクは実力派だが、とんでもないトラブルメーカーだった…。 ブラック・コメディ。
アカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞・撮影賞

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』象のロケット
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』作品を観た感想TB

画像(C)2014 Twentieth Century Fox All rights reserved.

birdman1.jpg 【解説と感想】本作の主人公は、「バードマン」というヒーロー映画のシリーズで世界的大スターとなった中高年の俳優リーガン(マイケル・キートン)。シリーズが終了して20年経つが、「バードマン」ほどのヒット作には恵まれていない。世間からも家族からも散々な扱いを受けているのだが、私にはいいお父さんにしか見えなかった。

birdman2.jpg 薬物依存から脱却中の一人娘サム(エマ・ストーン)は今、更生のためリーガンの付き人をしている。彼女は父が俳優として終わっていると決めつけ、自分がこうなったのも父のせいだと言わんばかり。何でも親のせいにするな! 少しは応援しろよと言いたくなる。愛する娘に尊敬されないなんて、父親として辛いよなぁ…。

この20年、全く仕事をしなかったわけではないだろう。大きい借金もなく、犯罪者でもない。薬物・アルコール・ギャンブルの依存症でもない。リーガンは再起をかけ、自身の脚色・演出・主演でブロードウェイの舞台に立つことを決意したのだが、周囲の目は冷たい。遊園地建設や宇宙遊泳ではなく、きちんと本業で勝負しようとしている真面目な俳優だというのに…。

その舞台劇の原作は、レイモンド・カーヴァーの短編「愛について語るときに我々の語ること」。インテリ好みの文芸作品で、アクション俳優のリーガンに洗練された会話劇なんて出来るわけないと揶揄されている。自分で脚色するくらいだから、多少の素養はあるに違いない。いいじゃないか、冒険したって。ひょっとしたら、うまく行くかもしれないでしょ?

birdman3.jpg 舞台経験ゼロのリーガンがブロードウェイで主演できるのは、「バードマン」の知名度のおかげ。ところが、実力派の舞台俳優マイク(エドワード・ノートン)はデカい顔をするし、ハリウッドが大嫌いな舞台批評家タビサ(リンゼイ・ダンカン)からは、まだ見てもいないのにコケにされてしまう。しかし、一作でも世に知られた主演作品があるのは俳優として幸せなこと。今までパパラッチにも耐えてきたはず。有名人であることを利用したっていいじゃないか。まずは客が来なければ始まらないのである。

劇中のブロードウェイ劇でリーガンが演じる元恋人に復縁を迫る男、仕事と私生活の再起をかける本作の主人公リーガン、そして、本作でリーガンを演じるマイケル・キートン自身の姿が重なって見えてくるようなストーリーで、ハリウッド映画もアメコミヒーローもケチョンケチョンな扱いをされている。ところが本作自体もちろんハリウッド映画であり、リーガン役のマイケル・キートンは「バッドマン」、マイク役のエドワード・ノートンは「インクレディブル ハルク」、サム役のエマ・ストーンも「アメイジング・スパイダーマン」のヒロイン役と、3人ともアメコミヒーロー映画に出演している。そして彼らは本作でそれぞれアカデミー賞にノミネートされ、ハリウッドをけなしつつも本作はアカデミー賞作品賞その他、ものすごい数の賞を受賞するという快挙を成し遂げた。ある意味、ハリウッド映画の計り知れない懐の深さを感じる作品である。

birdman4.jpg リーガンのそばには時折、昔演じた“バードマン”が長年の相棒のように出現し、ドッキリわくわくさせてくれるシーンもある。だがそこからは、リーガンが相当追い詰められていることも感じられるのだ。 彼はブロードウェイで羽ばたくことができるのか? それとも終わってしまうのか? どんどん大変なことになっていく。長回しでずっと切れ目がないように感じられる本作、特にラストの窓のシーンは重要なので、画面から目を離さず注意してご覧頂きたい。

仕事一筋のお父さん、どうか、お仕事頑張ってください。誰もがあなたの価値を分かっていないが、私は心から尊敬し応援していますよ。そう言いたくなるブラック・コメディ。お薦め作品だ。
(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
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2015年03月01日

『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』お薦め映画

★★★★★ 2014年製作 米・英 (115 min)
【監督】モルテン・ティルドゥム
【出演者】
ベネディクト・カンバーバッチ(それでも夜は明ける、スター・トレック イントゥ・ダークネス、アメイジング・グレイス、裏切りのサーカス)
キーラ・ナイトレイ(はじまりのうた、つぐない、プライドと偏見、ある公爵夫人の生涯)
マシュー・グード(イノセント・ガーデン、敬愛なるベートーヴェン、マッチポイント、シングルマン)
マーク・ストロング、チャールズ・ダンス、アレン・リーチ、マシュー・ビアード
【あらすじ】1939年、第二次世界大戦開戦直後のイギリス。 27歳の数学者アラン・チューリング、チェスチャンピオンのヒュー・アレグザンダーら6人の精鋭が、英政府の暗号研究機関“ブレッチリー・パーク”に集められる。 彼らに課せられた任務は、ドイツ軍が世界に誇る最強の暗号<エニグマ>を解読することだった…。 英国政府が50年間隠し続けた真実の物語。
アカデミー賞脚色賞

『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』象のロケット
『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』作品を観た感想TB

画像(C)2014 BBP IMITATION, LLC All rights reserved.

imitation1.jpg 【解説と感想】2人のイギリスが生んだ天才の物語が公開される。一つは「博士と彼女のセオリー」で、車椅子の物理学者スティーヴン・ホーキング博士(1942〜)になりきったエディ・レッドメインが主演男優賞を受賞した。もう一つが本作である。数学者アラン・チューリング(1912〜1954年)が主人公で、アカデミー賞脚色賞を受賞した。

imitation2.jpg チューリングは第二次世界大戦中にその頭脳を買われ、難攻不落と言われたナチスドイツの暗号“エニグマ”解読に挑んだ。その内容は50年以上も政府の重大機密であったため、彼の功績までもが曖昧にされていた。また後年、彼は不当(当時としては合法)に逮捕され、学者としての名誉と人間としての尊厳が傷つけられてしまった。そんなことが重なったせいか、コンピュータや人工知能の父と言われる偉大な数学者でありながら、ホーキング博士ほどは知られていない人物である。

imitation3.jpg さて、映画の中心となっているのは、アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)が、ブレッチリー・パーク(英政府の暗号研究機関)で同僚たち(キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、アレン・リーチ、マシュー・ビアード)と“エニグマ”解読に挑む数年間である。全員が各分野の精鋭で自信たっぷり。最初はゲーム感覚で解読に挑んでいたが、次第に「母国の人命を救うため」という使命感が広がっていく。

暗号の全組み合わせを調べるには2000万年以上かかり、しかも毎晩0時には設定が変わってしまうから、手作業では一生かかっても追いつかない。巨大な暗号解読機を手作りするが、それでも解読できない。エニグマもナチスドイツも強敵だった(日本軍の複雑な暗号も、アメリカが解読しようとしていた)。また、一つ暗号を解読したからといって、すぐ戦争に勝てるわけではない。まさに情報戦。ジェームズ・ボンドのような風貌のマーク・ストロングが、英国情報機関MI6の長官を演じている。

ところで、正月の箱根駅伝で青山学院大学駅伝部が優勝し、元「伝説の営業マン」原監督の選手育成手腕と、大学から予算を引き出したプレゼン力が話題となった。チューリングにも、予算獲得と自分の能力を売り込むプレゼン力、チームを率いる力があったようだ。いくら優秀でも一人の力には限界がある。一匹狼の変人チューリングが同僚と信頼関係を築いていく過程や、海軍中佐(チャールズ・ダンス)へのアピール、上がダメな場合の立ち回り方、結果が出せず非難されても耐え忍ぶ力、何度リストラされかけても平然としている図太さ、あきらめない勇気などは、会社員の方々にも参考になると思う。

一方で、本作はピュアなラブ・ストーリーでもある。チューリングは自分が作った機械に名前を付け、友達か恋人のように大事に扱っていた。彼は変わり者だから、数学や暗号、機械しか眼中になかったのだろうか。それともずっと愛し続けた人がいたのだろうか。思い至れば切なく、悲しい。

imitation4.jpg 大戦中と、チューリングのパブリック・スクール時代と、晩年が交錯している。少年時代と晩年の出来事が、彼の一生を左右した。時代が時代なら、自由に恋をして、ホーキング博士のように長生きして、もっともっと研究を続けられたであろう。知られざる第二次世界大戦下の情報戦と、天才数学者の生涯を描く、実話から生まれた物語。お薦め作品だ。
(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
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2015年02月03日

『アメリカン・スナイパー』お薦め映画

★★★★ 2014年製作 米 (132 min)
【監督】クリント・イーストウッド(バード、ジャージー・ボーイズ、ミリオンダラー・ベイビー、グラン・トリノ)
【出演者】
ブラッドリー・クーパー(世界にひとつのプレイブック、ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い、ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える、プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ / 宿命)
シエナ・ミラー(ファクトリー・ガール、G.I.ジョー、カサノバ、アルフィー)
ルーク・グライムス(96時間 /リベンジ)
ジェイク・マクドーマン、ナヴィド・ネガーバン、キーア・オドネル、ケビン・ラーチ
【あらすじ】9.11以降のイラク戦争。 米海軍特殊部隊ネイビー・シールズに入隊を果たしたクリスは、卓越した狙撃の精度で多くの仲間の危機を救い“レジェンド”の異名を轟かせる。 しかし敵からは“悪魔”と恐れられ、その首には18万ドルの賞金が掛けられていた。 極限状況の戦地への度重なる遠征は、クリスの心を序々に蝕んでいく…。 伝説的スナイパーの半生。 R-15

『アメリカン・スナイパー』象のロケット
『アメリカン・スナイパー』作品を観た感想TB

画像(C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC All rights reserved.

sniper1.jpg 【解説と感想】2月1日早朝、シリアやイラクの一部を実質的に支配しつつある中東の過激派ISILまたはISIS(いわゆる“イスラム国”)による邦人人質事件は、最悪の結末を迎えた。更に彼らは、日本国民への無差別殺害警告まで発した。その非道なやり方は許せないし、日本全体で“イスラム国”憎しの感情が高まっている。それでも私たち日本人は「目には目を、歯には歯を。」といった報復措置は取らない。中東を爆撃したりしないし、“イスラム国”とは何の関係もないイスラム系やイスラム教の人々を差別したりもしない…はずであるし、そうでなければならない。

sniper2.jpg 本作は実在の兵士クリス・カイル(1974〜2013)の回顧録に基づいている。彼は1999年にアメリカ海軍特殊部隊(ネイビーシールズ)に入隊し、狙撃手(スナイパー)としてイラク戦争に4回出兵した。その間、公式記録としては米軍史上最多の160人を射殺(非公式記録ではもっとずっと多いという)している。

通常、戦地でのクリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)は、屋上の見晴らしの良い場所で静かに銃を構えている。彼の任務は、味方の兵士を殺そうとしている敵を、先に殺してしまうこと。自爆テロや、手榴弾、銃を手にしていると思われるのは、成人男性ばかりではなく女子供までいる。自らの判断で、危ないと思ったら引き金を引く。即断即決のストレスはいかばかりか。戦闘シーンはリアルで、爆風で吹き飛ばされてしまいそうな臨場感がある。

sniper3.jpg 常に紛争地域に介入している軍事大国アメリカ。「野蛮なテロリストたち」を一掃し、9.11事件を繰り返してはならないという強い信念の下、クリスたちは命を懸けて戦っている。仲間一人の死が、部隊に与えるショックは大きい。一方、敵は何人殺そうが、痛くも痒くもない。敵が殺されるとホッとする。見ている方もだんだんそんな気になってくるから、慣れというのは恐ろしい。しかし本当にクリスは「敵ならいくら殺しても平気」だったのだろうか?

sniper4.jpg 美しい妻(シエナ・ミラー)と、かわいい盛りの子供たちを残して戦場へ向かうクリス。妻は一刻も早く退役して欲しいと願っている。しかしクリスは、家族と過ごす平和な毎日の方に違和感を感じている。大きな音がすると、本能的に身構えてしまう。クリスは病んでいる。明らかに多くの帰還兵たちを苦しめてきたPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状だ。いくら任務とはいえ、人を殺して平気なはずがない。何度も死にかけて平常心でいられるはずがない。むしろ、病んでこそ正常な人間といえるだろう。もし戦争で心を病んだ人が事件を起こしたら、それは誰の責任になるのだろうか?

sniper5.jpg 本作をイラク戦争の正当化や、スナイパーを英雄視する映画だと思われる方もいるかもしれないが、鑑賞後の印象は逆である。だからといって、戦った兵士たちを貶めるものでもない。イラク戦争の時と同じように現在、アメリカが主導する対テロ有志連合は、“イ
スラム国”掃討作戦を行っている。今回の邦人人質殺害事件により、日本人にとっても中東は“よく分からない遠くて関係のない地域”ではなくなった。私たちが紛争地域(紛争の理由や、困っている人々)にもっと関心を持つことは、ジャーナリスト後藤健二さんの願いでもあると思う。イラク戦争が、一人のアメリカ人兵士に与えた影響を描く実話物語。お薦め作品だ。

(象のロケット 映画・ビデオ部 並木)


 
posted by 象のロケット at 15:48| Comment(1) | TrackBack(23) | 超お薦め映画作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする